前世は絶対に鬼か悪魔だね
人が辛い目にあってんのを見て笑ってられるなんて
それとも、あたしかお兄ちゃんが何かした訳?
とにかく、あたしは未来永劫、跡部景吾と仲良くなることなんてナイと思います
クロスステッチ〜交差する心〜
こんなに必至な思いして走ったのなんか今までなかった
というか、元を辿ればあたしが走らなきゃいけない理由は全くもって無かったんだけど…
は、軽く100を越えていさそうな跡部ファンに追いかけられていた
それというのも、何の目的かもわからない跡部が
まるでと恋人関係であることを思わせるような発言を公の場でしたためだ
「いたわよ!」
「足遅いくせに狭いところを逃げまくるなんて…手間かけさせないでよね!」
「ちょっとだけ礼儀ってもんを教えてやるわ」
ここここ怖っ
この人たち、ホントに中学生!?
な、なんか最近こればっかり考えてるような気が…!
「あ、あの…何か勘違いされてるみたいなんですけど…
あ、あたしは跡部先輩と付き合ってなんかいません…。
きっと、跡部先輩が冗談言ってるだけですから…」
出来るだけ平静を保って笑顔を浮かべた
でも実際には脚は震えるし、声も震えてたせいか、ひきっつた笑顔になっちゃったんだけど
「こいつ…跡部くんに責任押し付けてるわよ!」
「んなこと聞いてんじゃねぇよ!うちらは何で景吾に名前覚えてもらうほど
景吾に近づいてんのかって聞いてんだよ!」
「(ひゃあー…っ)…痛っ」
ある先輩が、あたしの髪を掴んだ
手加減なんか知らない力といくつもの鋭い視線がすごく怖い
「わかってんの?」
「…っか…ます…」
「あーあぁ、泣いちゃったじゃん」
「知らないわよ、この子が勝手に泣いたんでしょ」
怖くて、怖くて、毅然とした態度なんか出来そうにない
むしろ、現状は真逆
何であたしがこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう、と歯をくいしばるしかなかった
本当は、今すぐにでも大声をあげて泣きたかったけれど、
歯をくいしばったからか、すすり泣くことしか出来ない
というか、こんな人たちに大声をあげて泣く姿を見られるのなんて真っ平ごめんだった
こんな状況ではあるけれど、あたしにもプライドってものがあるんだから
そう考えていると、女子の群れの後ろの方からざわめきが聞こえてきた
次いで、蜘蛛の子を散らすように退散していく
涙で霞んだ視界を頼りに見つめると、大きな男の子が近づいてきていた
「か、樺地くんよ!」
「うそ!?樺地くん!景吾はどこ行ったの…!?」
「あっち…です」
「きゃー!!行くわよ!」
「そ、そうね!こんな子に関わってる場合じゃないわ…!」
かばじくん、と呼ばれている男の子の影響はすごかった
あたしの前に群がっていた女生徒たちはとうとう1人もいなくなって、
再び静かになった
「えっと…?」
じーっとまるで赤ちゃんが人を見るときのようにこちらを見てくる
さすがにそこまで見られると照れるもので、は視線を逸らさざるを得なかった
「樺地…宗弘…です」
「あ、あたし宍戸です。えっと…樺地くんは一年生?」
「ウス」
「そうなんだー!あ、もしかしてテニス部の人…?」
「ウス」
「わぁーっ!鳳くんたち以外で初めて発見しちゃった!」
樺地くんは、肩にテニスバッグをかけていた
がっしりとした体つきにテニスバッグが妙に小さく見えちゃう
「ウス…」
「え、なになに?…ぎゃあっ!」
抱き上げられた、というよりも担がれた、の方が正しいのかもしれない
重そうなテニスバッグをかけているにも関わらず、あたしを軽々と抱えて
茂みに入ったかと思いきや、木陰に降ろされた
「ウス…」
「い、いやウスじゃなくて…どうしたの?」
「ウス」
「ん、んーと…ご、ごめん。わかんない…」
「ウス…」
「あ!ご、ごめんね!そんな悲しい顔しないで!」
某金融会社のCMに出てくる犬みたいな瞳の樺地くんを見ると、
なんともいえない気持ちになってくる
体つきはすごく大きくて、確かな男の人なのに、
その瞳を見ると純粋な「男の子」を感じてしまう
「樺地くん…?」
樺地くんの大きい手のひらがあたしの両耳を塞いだ
ごー、という音に混じってかすかに外の音が聞こえる
「…宍戸くんの…だからって…」
「最悪…ぜった…すから」
「あはは!…言えてるー!」
茂みの隙間にさきほどの跡部先輩ファンであろう二人がいた
あたしのことを捜すのを諦めて、教室に帰るらしい
樺地くんの手のひらで会話の内容はしっかりと聞き取れなかったが、なんとなくはわかった
こうして直接的に自分の悪口を聞いてしまうと、相手が知らない人であったとしても
自然と悲しくなってくる
今までそういう経験が無かったからなのかもしれない
それとも、納得がいかない理由でこんな目に遭っているからかもしれない
しばらくして、先輩たちが去って行ったのか、樺地くんの手のひらが離れていった
「難しいね…」
「う…?」
「えへへ、なんか難しいなーって思って…」
あはは、と笑い続けているうちにどんどん泣けてきた
安心、したのかもしれない
それとも、樺地くんの手のひらが温かかったからかもしれない
まるで、栓がポーンって抜けちゃったみたいに涙が次々溢れてきた
「ウス…」
「あ…、ありはと…」
「ウス」
差し出してくれたハンカチで涙を拭くと優しい石鹸の匂いがした
それが何だか妙に心地よくて、無理して笑ってみたら樺地くんも笑ってくれた…ような気がした
「ありがとう、樺地くん」
「ウス」
「友達に…なってくれる?」
「ウス!」
「ありがとう…」
あたしが小指を差し出すと、それに樺地くんの小指も続いた
大きさが倍近く違う小指が絡まって、特に何か約束をするわけじゃないけれど、指きりげんまんをした
心の底から優しさの塊で出来てるみたいな人
それが、樺地くんだった
あとがき
樺地編スタートです。ホントはジロー編が終わってから始めようかと思ってたんですが
ジロー・樺地・滝あたりは2話で終わっちゃうので並行してやろうかと。
今回は樺地大活躍でしたね。次の樺地編で色々種明かしです。